なぜ「人を任せる」判断が、海外経営で最も重いのか
― 仕組みでは代替できない経営判断
海外事業を展開していくと、
経営者は必ず、「人」に関する判断を迫られます。
- 誰に任せるのか
- どこまで任せるのか
- うまくいかなかった場合、どう責任を取るのか
制度や戦略と違い、
「人を任せる」判断には、
明確な正解がありません。
それでも経営者は、
この判断から逃げることはできません。
海外では「人」が経営の成否を左右する
海外子会社・関連会社では、
日々の意思決定の多くが、
現地の人材に委ねられます。
市場環境や商習慣、
文化的背景が異なる中で、
本社がすべてを把握し、
逐一指示することは現実的ではありません。
結果として、
海外経営の成否は、
「誰を信頼し、何を託すか」
という一点に収斂していきます。
「能力」と「価値観」は別の軸である
人を任せる際、
経営者はしばしば
能力や実績に目を向けます。
もちろん、
それらは重要な判断材料です。
しかし、海外経営では、
能力と同じくらい、価値観の共有が重要になります。
- 何を優先するのか
- どこで一線を引くのか
- 困難な局面で、どの判断を選ぶのか
これらが共有されていなければ、
優秀な人材であっても、
経営の方向性は簡単にずれてしまいます。
任せるとは「丸投げ」ではない
人を任せるという言葉は、
時に「現地にすべてを委ねること」と
誤解されがちです。
しかし、
本来の意味での「任せる」とは、
- 判断の余地を与える
- その前提となる軸を共有する
- 結果に対する責任の所在を明確にする
という、
極めて構造的な行為です。
任せることと、
放置することは、
まったく異なります。
判断軸を共有できているか
人を任せる判断が機能するかどうかは、
「判断軸が共有されているか」に
大きく左右されます。
- 迷ったとき、何を基準に考えるのか
- ルールと現場判断の境界はどこか
- 本社に報告・相談すべきラインはどこか
これらが曖昧なまま任せてしまうと、
トラブルが起きたときに、
責任の所在が不明確になります。
結果として、
任された側も、
判断をためらうようになります。
人を任せる判断は、後戻りできない
人事の判断は、
一度下すと、
簡単には修正できません。
特に海外では、
- 組織への影響が大きい
- 変更のコストが高い
- 誤ったシグナルが残りやすい
という特性があります。
だからこそ、
人を任せる判断には、
慎重さと覚悟の両方が求められます。
GRCは「人を任せる」判断も支える
前々回のコラムで触れたGRCは、
不正やリスク対応だけでなく、
人を任せる判断においても有効です。
- 最終責任は誰が負うのか
- どのリスクは許容し、どこから先は許容しないのか
- 守るべき原則は何か
これらを事前に整理しておくことで、
人事判断は
属人的な好みや期待から距離を取れます。
おわりに
海外経営において、
人を任せる判断は、
最も重く、最も避けられない決断です。
制度や仕組みは、
後から修正できます。
しかし、
人に対する判断は、
組織に長く影響を残します。
だからこそ、
人を任せるとは、
信頼の表明であると同時に、
経営者自身の覚悟の表明でもあります。
次回は、
こうした判断を現地で担う立場から見た、
本社と海外拠点のすれ違いについて、
いわゆる「OKY」という言葉を手がかりに、
整理していきます。
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【本稿について】
本稿は、筆者のこれまでのグローバル事業運営および経営支援の経験を踏まえ、
特定の企業・組織・時期を指すことのないよう、
事実関係を再構成・一般化したうえで記述しています。
実在の企業や個別事案を論評・評価する意図はありません。