なぜ海外事業ではGRCが「管理」ではなく「経営の背骨」になるのか
― 判断を迷わせないための共通軸
海外事業を展開していくと、
経営者は必ず、判断に迷う局面に直面します。
- 現地から上がってくる情報は断片的
- 本社と現地の距離は物理的にも心理的にも遠い
- 正解が一つとは限らない意思決定が続く
こうした状況の中で、
「何を基準に判断するのか」が曖昧な組織は、
必ず立ち止まります。
海外経営で起きがちな「判断のブレ」
海外子会社・関連会社を複数抱えると、
同じ種類の問題が、
形を変えて何度も現れます。
- 不正や不祥事の兆し
- 業績悪化への対応
- キーパーソンの評価や処遇
- 本社と現地の意見対立
そのたびに、
個別最適で対応しようとすると、
判断は必ずブレます。
そして、この「ブレ」は、
驚くほど早く現地組織に伝わります。
GRCは「ルール集」ではない
GRC(Governance, Risk Management, Compliance)という言葉は、
管理部門の用語として語られることが少なくありません。
しかし、海外事業においてGRCは、
単なる管理の仕組みではありません。
それは、
経営者が迷わず判断するための「軸」です。
- 誰が最終的に責任を負うのか(Governance)
- 放置した場合、何が致命傷になるのか(Risk Management)
- どのルールを、どの水準で守るのか(Compliance)
これらを事前に整理しておくことで、
突発的な事態に直面しても、
判断が感情や場当たりに流れることを防げます。
GRCがない組織で起きること
GRCが曖昧な組織では、
問題が起きるたびに、
次のような状態に陥りがちです。
- 本社の判断がケースごとに変わる
- 現地は「今回はどこまで本気なのか」を探り始める
- 結果として、誰もリスクを正面から扱わなくなる
これは、
統制が弱いというよりも、
経営の意思が伝わっていない状態だと言えます。
判断を支える「背骨」としてのGRC
私自身、
グローバル事業に関わる中で実感したのは、
GRCがあることで、
- 判断が速くなる
- 判断理由を説明できる
- 組織に一貫したメッセージを出せる
という点でした。
GRCがあるから厳しい判断ができるのではありません。
厳しい判断から逃げないために、GRCが必要なのです。
これは、
誰かを縛るための仕組みではなく、
経営者自身を支える枠組みだと感じています。
PMIとも強く結びつくGRC
前回のコラムで触れたPMIの場面でも、
GRCは重要な役割を果たします。
- どこまで本社が関与するのか
- 何を現地に任せ、何を任せないのか
- 判断が割れたとき、何を優先するのか
これらをその場その場で決めていては、
PMIは必ず迷走します。
GRCという共通の判断軸があることで、
PMIは「人の好き嫌い」や
「力関係」から距離を保つことができます。
GRCは海外経営の共通言語になる
海外拠点では、
文化や価値観が異なる人材が集まります。
そうした環境では、
暗黙の了解や空気に頼った経営は機能しません。
GRCを
- 価値観
- 判断基準
- 行動の前提
として共有することで、
初めて「共通言語」が生まれます。
これは、
細かなルールを押し付けることとは
全く別の話です。
おわりに
海外事業で経営者が最も避けるべきなのは、
判断を先送りすること、
そして判断の理由を語れなくなることです。
GRCは、
そのための管理ツールではありません。
困難な局面で、
経営として逃げないための背骨。
そう位置付けたとき、
GRCは初めて、
海外事業の中核に据える価値を持つと考えています。
次回は、
こうした判断軸が試される別の場面、
M&Aにおける「セカンドオピニオン」の重要性について、
経営者の視点から整理していきます。
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【本稿について】
本稿は、筆者のこれまでのグローバル事業運営および経営支援の経験を踏まえ、
特定の企業・組織・時期を指すことのないよう、
事実関係を再構成・一般化したうえで記述しています。
実在の企業や個別事案を論評・評価する意図はありません。