鮫島コラム

M&Aセカンドオピニオン(実録編)①

なぜ社長は「M&Aセカンドオピニオン」を求めたのか

M&Aにおけるセカンドオピニオンの重要性については、
別稿なぜM&Aでは『セカンドオピニオン』が経営を守るのかで、
一般論として整理しています。
本稿では、実際の支援事例をもとに、その具体的な使われ方をお伝えします。

ある日、会社の売却を検討している中小企業の社長と初めてお会いしました。
事業承継の一環として、M&Aという選択肢を本格的に考え始めている段階でした。

社長はすでに、複数のM&Aアドバイザリーと接触し、具体的な提案も受けていらっしゃいました。
M&Aについてもご自身でよく勉強されており、検討はかなり進んでいるように見えました。

そのため、私は率直にこうお尋ねしました。
「私に、どのようなことを期待されていますか」

少し間を置いて、社長は明確に答えられました。
「セカンドオピニオンです」

その言葉を聞いたとき、私はこの案件の性質を理解しました。
社長は、誰かに判断を委ねたいわけではありません。
また、何が正しいのか分からずに迷っているわけでもありませんでした。

■ 判断を完成させるためのセカンドオピニオン

社長は、最初に20社近いM&Aアドバイザリーを訪問・面談し、
その中からご自身の基準で4社にまで絞り込んでいらっしゃいました。
つまり、すでに自分なりの方針と判断軸は固まっていたのです。

それでも、最終的な決断に踏み切る前に、
もう一段、視点を重ねたいと考えているようでした。

・提示されている売却価格は、市場の実勢とかけ離れていないか
・前提となっている数字に無理はないか
・条件面で見落としている論点はないか

こうした点について、
利害関係を持たない第三者の立場から、特に数字の面での客観的な評価を聞いたうえで、最終意思決定につなげたい
それが、社長が私に「セカンドオピニオン」を求めた理由でした。

■ 提案書は「正しい」ことしか書いていない

M&Aアドバイザリーの提案書は、どれもよく整理されています。
財務指標、バリュエーション、想定スケジュール、買い手像――
書いてある内容自体が間違っているケースは、ほとんどありません。

しかし、
「正しいことが書いてある」ことと、「この社長にとって最適かどうか」は別問題です。

成功報酬型のビジネスモデルでは、
「成約しやすい価格」や「まとめやすい条件」に寄っていく力が構造的に働きます。
それ自体が悪いわけではありませんが、
その前提を理解せずに提案を受け取ると、判断を誤るリスクが高まります。

■ 私が行ったこと

私が行ったのは、
「どのM&Aアドバイザリーが正しいか」を決めることではありませんでした。

・評価軸をそろえる
・数字の前提条件を分解する
・条件面の論点を整理する

そのうえで、
「この選択をした場合、将来どのような状態になるのか」
を社長と一緒に確認していくことです。

最終的な判断を下すのは、あくまで社長ご本人です。

■ 社長が下した決断

複数の提案を比較・検討した結果、
社長は、私の評価で2番目を付けたM&Aアドバイザリーを、
パートナーとして選定されました。

理由は、非常に明快でした。
「最も熱量を感じたからです」

私は、その判断を聞いて、
とても良い決断だと感じました。

M&Aは、理屈だけで進むものではありません。
交渉の過程では、想定外の事態が必ず起こります。
そのとき、経営者の隣に立ち、粘り強く動いてくれるかどうか。
そこに必要なのは、数字以上に当事者意識と覚悟です。

私は社長の判断を尊重し、その決定を支持しました。

■ セカンドオピニオンは「決断を奪わない」

セカンドオピニオンの役割は、
「正解を示すこと」ではありません。

経営者が、
納得して決断するための材料を整えること
そして、決断した後に、
「この選択でよかった」と思える状態をつくることです。

次回は、
なぜM&Aアドバイザリーの提案内容や評価が大きく食い違うのか。
その構造的な理由について掘り下げていきます。

【本稿について】
本稿は、筆者のこれまでの経営支援の経験を踏まえ、
実際の事例を参考にしつつも、
特定の企業や個人が識別されないよう内容を再構成・一般化して記述しています。
実在の企業や個別案件を論評・評価する意図はありません。