鮫島コラム

香港四大トレイル踏破記

香港トレイル①

― 摩天楼の裏側から始まる50km ―

※前回のプロローグ「コロナ禍の香港で始まった『冒険』」では、香港で山を歩き始めた背景について書きました。
今回から、いよいよ香港トレイル本編に入ります。

香港トレイルという「都市型ロングトレイル」

香港四大トレイルの中で、最も親しみやすく、アクセスに優れているのが「香港トレイル」です。

全長約50km。
香港島を西から東へ横断し、ヴィクトリアピークから大浪湾(Big Wave Bay)へと続く8つのセクションで構成されています。

100kmのマクリホーストレイルなどと比較すると距離は短く、公共交通機関へのアクセスも良いため、初心者でも挑戦しやすいロングトレイルとして人気があります。

しかし、このトレイルの本当の魅力は別のところにあります。

それは、

「世界有数の大都市のすぐ裏側に、本格的な山岳トレイルが存在していること」

です。

香港島では、摩天楼の背後にすぐ山が立ち上がっています。
そのため、都市と自然の距離感が、日本とはまったく異なります。

ピークトラムから始まる「登山口」

香港トレイルの起点は、ヴィクトリアピーク(The Peak)。

観光地として有名な場所ですが、実はここが本格トレイルのスタート地点でもあります。

ピークトラムを降りると、そこには高層マンション群と豊かな森が同時に存在する、不思議な景観が広がっています。

観光客で賑わうピークから、少し脇道に入るだけで、空気が一変するのです。

摩天楼の裏側を歩く

私たちは、香港トレイルのセクション1から3を歩きました。

ヴィクトリアピークをスタートし、ワンチャイギャップ方面へ向かうルートです。

途中、盧吉道(Lugard Road)周辺では、
「ここが本当に大都市なのか」と思うほど静かな森が広がります。

しかし、木々の隙間から視線を落とすと、そこには高層ビル群が見える。

この感覚が、香港トレイル最大の特徴です。

自然の中を歩いているはずなのに、常に都市の存在を感じるのです。

英国統治時代の痕跡

香港島のトレイルでは、ときどき不思議な標識を見かけます。

その一つが、「馬禁止」の標識です。

一見すると奇妙に見えますが、これは香港がかつて英国統治下にあったことを強く感じさせる風景でもあります。

香港島の山側には、英国統治時代に整備された道や文化の痕跡が、今も自然に残されています。

前回紹介した「サー・セシル・ライド」もその一つです。
地元では「香港総督サー・セシル・クレメンティの夫人の乗馬用ルートとして整備された道だ」というエピソードが語られています。

香港のトレイルは単なる自然ではありません。

そこには、

  • 植民地時代の歴史
  • 都市開発
  • 山側居住文化

など、多層的な背景が折り重なっています。

岩場と急坂、そして摩天楼

私たちが歩いたセクション1〜3は、決して“楽な散歩道”ではありませんでした。

ロッキーな路面、変化の大きいアップダウン、急勾配の下り。

最後は、以前歩いたボーエンロードウォーキングトレイルを横切り、一気に市街地へ下ります。

気が付けば、18kmを超えていました。

しかし不思議と疲労感よりも、

「都市の裏側を歩き切った」

という感覚の方が強く残りました。

香港という都市の「異様さ」

香港トレイルを歩いていて、何度も感じたことがあります。

それは、

「香港という都市は、地形そのものに規定されている」

ということです。

平地が極端に少ないため、都市は垂直方向へ伸びる。
そして、そのすぐ背後には山がある。

つまり香港では、

  • 都市
  • インフラ
  • 自然

が極めて近距離で共存しているのです。

これは、実際に歩いてみないとなかなか実感できません。

次なるステージへ

香港トレイルは、この先さらに東へ続きます。

次第に山深さが増し、
やがて大潭(Tai Tam)貯水池、そして香港を代表する絶景ルート「ドラゴンズバック」へとつながっていきます。

途中では、ウィルソントレイルとも交差します。

香港四大トレイルは、それぞれ独立したルートでありながら、どこかで互いに接続し合っているのです。

そしてその構造自体が、どこか香港という都市の成り立ちにも似ているように感じました。

(続く)