AIオーケストレーションとは何か
――3週間の仕事を16日間で仕上げた実践から
AIオーケストレーションとは、仕事の目的と要件を起点に、複数の生成AIやAIツールに役割を与え、工程設計、実行、進捗管理、相互検証、品質管理までを一つのプロセスとして組み立て、人間が全体を指揮して最終判断する仕事の進め方です。
単にChatGPTやClaude、Geminiなど複数の生成AIを使うことを意味するものではありません。
重要なのは、「どのAIを使うか」だけではなく、AIを仕事のどこに配置し、何を任せ、どこで検証し、人間がどこで判断するのかを設計することです。
私は最近、実際のコンサルティング案件で、この方法を本格的に実践しました。
最大3週間程度を見込んでいた仕事を、最終的には契約から16日間で完了。約100ページの提案書と複数の付属資料をまとめ、クライアントへの最終報告まで行うことができました。
しかし、これは「生成AIに100ページの資料を書かせた」という話ではありません。
むしろ今回、大きな効果を感じたのは、AIによって仕事のプロセスそのものを設計・管理できたことでした。
なお、守秘義務の観点から、本稿ではクライアントを特定できる情報や具体的な分析内容について変更・省略しています。
最初にAIに作らせたのは「提案書」ではなかった
今回ご依頼いただいたのは、ある企業のWebマーケティングに関するコンサルティングでした。
Webサイトの現状分析、競合比較、検索データやアクセスデータの分析、SEO・AEO上の課題抽出、改善に向けた戦略の策定など、業務は多岐にわたります。
正式契約後、すぐに作業に着手しました。
しかし、最初にChatGPTへ「提案書を作ってください」と依頼したわけではありません。
まず、見積書や契約書に定めた業務範囲を確認し、
- 何を調査・分析する必要があるのか
- どのような順序で進めるのか
- どの段階で別のAIによる検証を行うのか
- 最終成果物をどのように組み立てるのか
という、成果物を完成させるまでのプロセスそのものをChatGPTと設計しました。
さらに、作業の途中と成果物作成後に、他の生成AIによるクロスレビューを行う工程も最初から組み込みました。
つまり、
AIに仕事をさせる前に、AIと一緒に仕事の進め方を設計した
のです。
AIを「作業者」だけでなく「プロジェクト管理」にも使う
もう一つ特徴的だったのが、生成AIを分析や資料作成だけではなく、進捗管理にも利用したことです。
私は自分のスケジュールをChatGPTと共有し、納期までにどの作業をいつまでに進めるべきか、全体スケジュールを作成しました。
そして、毎日の作業終了時には、
「契約書に記載された業務範囲に照らし合わせると、現在の進捗率は何%ですか?」
「残りの作業には、どの程度の工数がかかりそうですか?」
と確認しました。
ここで基準にしたのは、「今日は何ページ作ったか」ではありません。
クライアントと契約した業務全体に対して、現在どこまで仕事が完了しているかです。
生成AIが示す進捗率や残工数は、工数管理システムによって計測された厳密な実測値ではありません。あくまで、完了した業務と残作業を整理したうえでの推定です。
それでも、プロジェクト全体の現在地と着地点を把握する目安として有効でした。
着手2日後に「進捗45%」と報告
この進捗管理は、クライアントとのコミュニケーションにも役立ちました。
正式契約から2日後、私はクライアントに、
「現時点で全体の約45%まで進捗しています」
と中間報告しました。
併せて、一通りの分析をいつ頃までに完了できそうかという見通しもお伝えしました。
そして契約から9日後には、最終報告会の日程調整をお願いすることができました。
その時点で残作業と必要な工数を継続的に確認していたため、最終報告日までに成果物を完成できるという見通しを持つことができていたからです。
コンサルティングのような知的業務は、クライアントから進捗が見えにくい仕事でもあります。
「現在、鋭意分析中です」と報告することもできます。
しかし、現在どこまで進み、次の工程へいつ移れるのかを具体的に説明できれば、クライアントの安心感も変わります。
今回、AIは成果物作成を効率化するだけでなく、仕事の進捗を可視化し、顧客との信頼関係を支えるためのツールとしても機能しました。
「魔法のプロンプト」を使ったわけではない
ここまで読むと、
「生成AIにかなり複雑なプロンプトを入力していたのではないか」
と思われるかもしれません。
しかし私が使っていたのは、いわゆる「プロンプト集」に掲載されているような、コンピュータ言語を思わせる複雑な形式のプロンプトではありません。
基本的には、自然な日本語による対話です。
たとえば、
「これで契約書に記載された業務範囲をカバーしていますか?」
「昨日行った作業と重複していませんか?」
「今日の作業を終えた段階で、全体の何%まで進んでいますか?」
といった具合です。
部下やプロジェクトメンバーと仕事をするときと、それほど変わりません。
もちろん、AIに何をしてほしいのかを具体的に伝えることは重要です。
しかし私は、決まった「魔法のプロンプト」を覚えること以上に、
目的や背景、制約条件を伝え、結果を見て問い返し、必要なら軌道修正すること
の方が、実務では重要ではないかと感じています。
約100ページを一度に作らせなかった
分析が一通り終了した後、改善ロードマップと提案書の作成に入りました。
最終的な提案書は9章構成です。
しかし、9章すべてを一度にAIに作成させることはしませんでした。
一度に大量の情報を処理させれば、個々の論点が薄くなったり、前後の整合性が崩れたりする可能性があると考えたためです。
そこで、1章ずつ内容を確認しながら作成し、9章が完成してから一つの提案書として統合しました。
その後、全体の整合性を改めて確認します。
さらに今回の案件では、ChatGPTだけで完結させず、ClaudeやGeminiも利用しました。
それぞれに異なる観点から内容をチェックさせ、指摘を踏まえて修正し、最後にもう一度品質を確認するという工程を繰り返しました。
このクロスレビューについては、次回詳しくご紹介します。
AIを業務で使うなら、情報管理も設計する
AIオーケストレーションを業務で実践するうえで、もう一つ忘れてはならないのが情報セキュリティです。
コンサルティングでは、クライアントの経営情報や内部資料など、外部に漏れてはならない情報を扱います。
生成AIが便利だからといって、こうした情報を無条件に入力してよいわけではありません。
私は今回、利用する生成AIについて、入力した会話がモデルの学習・改善に利用されないよう、各サービスで利用可能なデータコントロールを確認・設定したうえで使用しました。
ただし、「学習に利用されない」ということと、「情報漏洩のリスクが完全にゼロになる」ということは同じではありません。
利用するサービスのデータ保持、共有機能、外部サービスとの接続などについても確認し、何をAIに入力してよいかを人間側で判断することが必要です。
複数のAIを組み合わせれば、情報を渡す先も増えます。
だからこそ私は、セキュリティをAIオーケストレーションとは別の問題ではなく、仕事のプロセスを設計する段階から考えるべき品質管理の一部だと考えています。
会社員時代、私は8年間にわたり情報セキュリティ・サイバーセキュリティを担当しました。その中で学んだ考え方の一つに、「セキュリティ・バイ・デザイン(Security by Design)」があります。
これは、製品やサービスをリリースした後になってセキュリティ対策を付け加えるのではなく、企画・設計の段階からセキュリティを組み込んでおくという考え方です。
私は、生成AIを業務に組み込む場合も同じだと考えています。
「まずAIを使ってみて、問題が起きたら対策する」のではなく、どの情報をどのAIに渡すのか、どのような設定で利用するのか、何をAIには入力しないのかまで、仕事のプロセスを設計する段階で考えておく。
いわば、AIオーケストレーションにも「セキュリティ・バイ・デザイン」の発想が必要なのです。
AIオーケストレーションとは「複数のAIを使うこと」ではない
今回の仕事では、ChatGPT、Claude、Gemini、さらに打合せ記録を作成するAIツールなど、複数のAIを利用しました。
しかし、複数のAIサービスを使っただけで「AIオーケストレーション」になるとは、私は考えていません。
重要なのは、仕事の目的から逆算して、AIをどの工程に配置し、何を任せ、どこで検証するのかを設計することです。
今回の仕事の進め方を整理すると、次のようになります。

このように、顧客との打合せから最終報告まで、一連の業務プロセスの中に複数のAIを組み込みました。
そして、その全体を人間である私が管理しました。
私は、このようにAIを個別の作業に使うのではなく、仕事のプロセス全体を設計し、複数のAIを適切に組み合わせながら成果物へ収束させていく仕事の進め方を、「AIオーケストレーション」と捉えています。
AIを「使う」から「指揮する」へ
オーケストラでは、優秀な演奏者を集めるだけでは、一つの音楽にはなりません。
それぞれの楽器には役割があり、全体をまとめる指揮者が必要です。
生成AIも、それに少し似ているように思います。
AIの能力が高くなればなるほど、何を任せ、どこで別のAIにチェックさせ、どの意見を採用し、最終的にどこへ向かうのかを決める役割が重要になります。
今回、最大3週間を見込んでいた業務を16日間で完了できたことは、AIオーケストレーションによって得られた成果の一つでした。
しかし、私がより大きな可能性を感じたのは、単なる時間短縮ではありません。
仕事の工程を構造化できたこと。
進捗を把握できたこと。
複数の視点から品質を検証できたこと。
情報管理まで含めて業務プロセスを設計できたこと。
そして、それらを一つの目的に向けて統合できたこと。
ここに、生成AIを仕事で活用する次の段階があるのではないかと考えています。
では、ここまで中心的にChatGPTを使っていたのであれば、なぜChatGPTだけで最後まで仕事をしなかったのでしょうか。
なぜ、わざわざClaudeやGeminiにも成果物を確認させたのでしょうか。
次回は、「なぜ一つの生成AIだけでは不十分なのか」をテーマに、今回実際に行ったAIクロスレビューについてご紹介します。
次回
AIオーケストレーション②
「なぜ一つの生成AIだけでは不十分なのか――AI同士をクロスレビューさせる」