香港トレイル踏破記 – マクリホーストレイル⑤
― 針山・草山を越えて、香港最高峰・大帽山へ ―
はじめに
マクリホーストレイルも、いよいよ終盤に入ります。
今回は、セクション6から8を歩きました。
この日のハイライトは、針山(Needle Hill)、草山(Grassy Hill)を越え、香港最高峰の大帽山(Tai Mo Shan)へ向かう山岳ルートです。
最高峰と聞けば、当然ながら大帽山が最大の難所だと思います。
しかし、実際に歩いてみるとそうではありませんでした。
私の体感では、この日最も厳しかったのは針山への急登です。香港四大トレイル全体を通しても、屈指のきつさでした。
それだけに、その後に登った標高957mの大帽山では、
「え、最高峰だけど、こんなもの?」
と感じたほどです。
今回は、そんな香港の山の「数字だけでは分からない面白さ」をご紹介します。
前回コラム
前回は、尾根沿いの天空回廊を歩き、九龍の街並みや香港島を望みながら、ライオンロックへ向かいました。
セクション6 ― 貯水池からスタート

セクション6のスタート地点周辺。穏やかな貯水池の風景から、この日の長いトレイルが始まります。
この日はマクリホーストレイルのセクション6から8を歩きます。
太子(Prince Edward)から81番のバスに乗り、セクション6の入口へ移動しました。
スタート地点は貯水池に近く、しばらくは比較的穏やかなコースが続きます。
しかし、この先には針山、草山、そして香港最高峰の大帽山が待っています。
この日の行程は約20.8km。
獲得標高は1,453mに達する、長い山歩きの始まりです。
針山への急登

目の前に立ちはだかる針山(Needle Hill)。山頂へ向かって急な登りが一直線に続きます。
セクション7に入ると、景色が一変します。
目の前に現れるのが針山(Needle Hill)です。
そして、その名の通り鋭く突き出した山へ向かって、急な登りが続きます。
私の体感では、この針山への登りは、香港四大トレイル全体を通しても屈指のきつさでした。
距離だけを見れば、それほど長い登りではありません。
しかし、とにかく傾斜が急です。
途中で息を整えては、また登る。
振り返ると、先ほどまでいた場所がどんどん小さくなっていきます。
針山の山頂へ

厳しい急登を越えて針山の山頂へ。登ってきた高さを実感します。
ようやく針山の山頂へ到着しました。
ここまで登れば、当然ながら達成感があります。
しかしマクリホーストレイルは、山頂に着けば終わりではありません。
ここから一度下り、次の山へ向かいます。
登って、下って、また登る。
この繰り返しが、マクリホーストレイルの厳しさでもあり、面白さでもあります。
針山から草山へ

針山を越えて、次は草山へ。山々をつなぐようにトレイルが続きます。
針山を越え、次に向かうのは草山(Grassy Hill)です。
針山の急登を終えたとはいえ、まだまだ先は長い。
山の稜線をたどりながら、さらに奥へ進みます。
視界が開けると、自分が歩いてきたルートと、これから向かう山々を見渡すことができます。
草山 ― 開放的な稜線へ

草山(Grassy Hill)の開放的な風景。草地の中に巨石が点在しています。
草山へ入ると、針山とはまた違った風景が広がります。
名前の通り草地が広がり、その中には大きな岩が点在しています。
針山の急峻な登りとは対照的な、開放感のある景観です。

広々とした草山の稜線。香港の山岳地帯の奥深さを感じさせる風景です。
午前中は少し曇っていましたが、次第に青空が広がってきました。
山々の間を縫うように続くトレイル。
高層ビルが密集する香港から、それほど遠くない場所とは思えません。
草山から香港最高峰・大帽山を望む

草山を下り始めると、遠くに香港最高峰・大帽山が姿を現しました。ここから、あの山頂を目指します。
草山を下り始めると、遠くに大帽山が見えてきました。
山頂付近には、特徴的なレーダー施設が見えます。
「あそこまで、これから歩くのか」
そう思うと、まだまだ先は長く感じます。
標高957m。香港最高峰です。
ここから鉛鑛坳(Lead Mine Pass)を経て、あの山頂を目指します。
草山を越え、鉛鑛坳へ

草山を越え、大帽山へ向かう途中にある鉛鑛坳(Lead Mine Pass)。
草山を越えて進むと、鉛鑛坳(Lead Mine Pass)に到着します。
針山、草山と歩いてきましたが、この日の目的地はまだ先です。
ここから、いよいよ香港最高峰・大帽山方面へ向かいます。
こんな高いところにも牛がいる

大帽山へ向かう山中で出会った牛。「こんな高いところにもいるのか!」と驚きました。
さらに山道を進んでいると、思わぬ相手に出会いました。
牛です。
マクリホーストレイル①でも、万宜水庫の近くで牛に出会いました。
あの時は、フラットな貯水池周辺でのんびりとたたずんでいました。
ところが今回は、かなり高度を上げた山の中です。
「こんな高いところにも牛がいるのか!」
思わず足を止めてしまいました。
香港のトレイルを歩いていると、都会のイメージからは想像できない風景に何度も出会います。
いよいよ大帽山へ

大帽山の山頂部へ続く道。香港最高峰を目指して、最後の登りへ。
いよいよ大帽山への登りです。
標高だけを見れば、この日の最大の難所はこちらのはずです。
ところが、実際に歩いてみると意外でした。
針山の急登があまりにも厳しかったため、
「え、最高峰だけど、こんなもの?」
というのが率直な感想でした。
もちろん、ここまで長い距離を歩いてきています。
それでも、針山で感じたような「壁を登る」感覚とはかなり違います。
標高の高さと、実際に歩いたときのきつさは、必ずしも一致しない。
実際に自分の足で歩いてみて初めて分かることです。
香港最高峰までやって来た

山頂付近は立入制限区域。一般のハイカーは本当の最高地点まで行くことができません。
ついに大帽山の山頂部へ到着しました。
標高957m。
ただし、大帽山には少し変わったところがあります。
山頂付近には施設があり、立入制限区域になっています。
そのため、一般のハイカーは標高957mの最高地点そのものに立つことはできません。
この日、私のGPSが記録した最高標高は933mでした。
亜熱帯の香港にも雪が降る

標高957mの大帽山。亜熱帯の香港ですが、この付近では過去に降雪も報告されています。
大帽山には、もう一つ意外な一面があります。
香港は亜熱帯に属しますが、大帽山付近では過去に降雪が報告されています。
香港天文台によると、1948年以降に香港で報告された軽微な降雪は4回あり、そのうち3回が大帽山付近で、1967年、1971年、1975年に報告されています。
もちろん、本格的な積雪というより、ごく軽微な降雪です。
それでも、
亜熱帯の香港にも雪が舞うことがある。
高層ビルや南国的な街並みのイメージが強い香港からは、少し意外な話ではないでしょうか。
出典: 香港天文台「Last time it snowed in Hong Kong」
大帽山から一気に下る

大帽山から始まる長い下り。山肌を縫うように道が続いています。
大帽山を後にすると、今度は一気に下ります。
眼下には見事な九十九折りの道。
これまで登ってきた高度を、今度は一気に下げていきます。
振り返れば、大帽山ははるか遠くに

振り返ると、先ほどまでいた大帽山ははるか遠くに。「あそこから歩いてきたのか」と距離を実感します。
しばらく下って振り返ると、先ほどまでいた大帽山が、もうはるか遠くに見えました。
長距離のトレイルを歩いていると、ときどき、
「本当にあそこから歩いてきたのか」
と思う瞬間があります。
歩いてきた距離を、自分の目で確認できる。
これもロングトレイルの醍醐味です。
再び森の中へ

標高を下げると、再び静かな樹林帯へ。長かった一日の山歩きも終盤です。
標高を下げるにつれて、景色は再び深い森へと変わっていきます。
さきほどまでの開放的な山頂部とは一変します。
長かったこの日のトレイルも、ようやく終わりが見えてきました。
セクション8を踏破

セクション8を踏破。ここからマクリホーストレイルはセクション9へ続きます。
セクション8を歩き終えました。
この日のハイキングは、ここまでです。
51番のバスで街へ戻る

山歩きを終え、51番バスで荃湾方面へ。再び香港の日常へ戻ります。
最後は51番のバスに乗り、MTR荃湾駅方面へ向かいました。
何時間も山の中を歩いたあと、バスに乗れば再び巨大都市へ戻ることができます。
本格的な山岳トレイルと大都市が、これほど近接している。
これも香港を歩く面白さの一つです。
20.79km、獲得標高1,453m

キャプション:この日の記録は20.79km、獲得標高1,453m。数字からも歩き応えのあるコースだったことが分かります。
この日の記録は、
距離:20.79km
移動時間:4時間58分41秒
獲得標高:1,453m
最高標高:933m
でした。

何度も登り下りを繰り返す標高グラフ。最高峰への単純な登山ではないことが分かります。
標高グラフを見ると、この日のコースの特徴がよく分かります。
登っては下り、また登る。
そして最後に大帽山へ向けて高度を上げていきます。
最高地点は大帽山ですが、私の脚に最も強烈な印象を残したのは、やはり針山の急登でした。
おわりに ― 最高峰より厳しかった山
香港最高峰・大帽山。
歩く前は、当然ここがこの日の最大の難関だと思っていました。
ところが、実際に歩いてみると違いました。
針山の急登の方が、はるかにきつかった。
そして草山の開放的な風景を越えると、山の中で思いがけず牛に出会いました。
さらに、亜熱帯の香港でありながら、大帽山では過去に雪まで報告されています。
標高957mという数字だけでは分からない香港の山の姿があります。
高層ビルが立ち並ぶ巨大都市。
そのすぐ背後には急峻な山々が連なり、牛が歩き、冬には雪さえ舞うことがある。
実際に自分の足で歩いてみると、香港という都市の見え方が少しずつ変わっていきます。
それこそが、私が香港四大トレイルを歩いて感じた、この土地の面白さなのかもしれません。
次回予告
▶ マクリホーストレイル⑥ ― 100kmのフィナーレへ
マクリホーストレイルも、残すところセクション9と10となりました。
針山、草山、大帽山という山岳ルートを越え、次回はいよいよ全長約100kmのマクリホーストレイルを歩き切ります。
これまでのような険しい山岳ルートとは少し雰囲気が変わる、最後の2セクション。
マクリホーストレイル100kmの旅を、最後まで歩きます。
シリーズを最初から読む
▶ 総論 ― 全長298kmの記録と都市構造の考察
▶ 香港トレイル① ― 摩天楼の裏側から始まる50km
▶ 香港トレイル② ― 猪と強風、そして「龍の背」へ
▶ マクリホーストレイル① ― 香港最大の水がめ・万宜水庫と西貢半島
▶ マクリホーストレイル② ― エメラルドグリーンの海と秘境の村を歩く
▶ マクリホーストレイル③ ― 山と海が織りなす香港の原風景
▶ マクリホーストレイル④ ― 天空回廊から望む香港