鮫島コラム

経営管理ビザの事業計画書で「数字の根拠」はどう示すべきか

― 売上予測は希望ではなく、論理で説明する ―

▶ 前回コラム

「経営管理ビザで見られる『事業の実態』とは何か」

前回は、経営管理ビザの審査では、書類だけではなく「事業の実態」が重視されることについてお話ししました。

現場を訪問し、経営者と対話を重ねることで、事業計画書だけでは分からない多くの情報が見えてきます。

しかし、実態があるだけでは十分ではありません。

その実態を、事業計画書の中で数字としてどのように表現するかも、極めて重要です。

今回は、私が事業計画書を確認する際に重視している「数字の根拠」についてご紹介します。

数字は「希望」を書く場所ではない

外国人経営者から事業計画書を拝見すると、

「売上は毎年30%ずつ成長します。」

「3年後には利益が2倍になります。」

といった記載を目にすることがあります。

もちろん、将来に対する前向きな目標を持つことは大切です。

しかし、事業計画書で求められるのは希望ではありません。

なぜ、その数字になるのか。

その根拠を第三者が理解できるように説明することが重要です。

経営管理ビザの審査では、

「数字が大きいか」

ではなく、

「数字を論理的に説明できるか」

が問われているのです。

私が最初に確認するのは売上の計算方法

私は事業計画書を確認するとき、最初に売上高を見ます。

しかし、売上金額そのものを見ているわけではありません。

まず確認するのは、

「その売上は、どのような計算で導かれたのか」

という点です。

例えば宿泊事業であれば、

・客室数

・平均稼働率

・平均宿泊単価

という三つの数字から、おおよその年間売上を説明することができます。

もし、

「稼働率80%」

「平均宿泊単価15,000円」

と記載されていれば、

私は、

「なぜ80%なのですか。」

「15,000円という単価は、どのような実績や市場調査をもとに設定したのですか。」

という点を確認します。

数字そのものよりも、

数字がどのような考え方から導かれているのか

を重視しているのです。

実際の支援でも、数字の整合性を確認した

以前ご紹介した宿泊事業とIT事業を営む外国人経営者の案件でも、私は数字の整合性を一つひとつ確認しました。

例えば、

客室数に対して売上予測は妥当か。

平均宿泊単価は現在の実績とかけ離れていないか。

OTA(オンライン旅行予約サイト)からの集客割合は、これまでの実績と整合しているか。

新たな設備投資や人員計画は、売上の伸びとバランスが取れているか。

こうした点を経営者と一緒に確認しながら、数字の根拠を整理していきました。

事業計画書に記載された数字は、それぞれが独立して存在するものではありません。

売上、経費、利益、投資、人員計画。

それらは互いにつながっています。

だからこそ、一つの数字を修正すると、他の数字にも影響が及ぶことがあります。

私は、その整合性を大切にしています。

数字は経営者の理解度を表している

私は、事業計画書の数字を「正しいかどうか」で判断しているのではありません。

「その数字を経営者自身が説明できるか」を見ています。

例えば、

「なぜ来年の売上は30%増加すると考えているのですか。」

という質問に対して、

「何となくそのくらい伸びると思います。」

では、第三者を納得させることはできません。

一方で、

既存顧客の増加、

OTAを活用した新規顧客の獲得、

宿泊単価の改善、

稼働率の向上、

設備増強による供給能力の向上など、

売上が増加すると考える具体的な理由を論理的に説明できれば、数字には説得力が生まれます。

売上だけではなく、利益にも目を向ける

売上が伸びることは喜ばしいことです。

しかし、

売上だけが増えている一方で、

人件費や広告宣伝費がほとんど増えず、

必要な設備投資や人員増強も見込まれていない計画では、

数字の整合性に疑問が生じます。

事業が成長すれば、

それに応じて必要となる人材や設備、経費も変化するのが一般的です。

私は、利益計画についても、

売上とのバランスや、費用の積み上げ方を確認しながら、計画全体に無理がないかを見ています。

おわりに

事業計画書の数字は、未来を正確に予測するためのものではありません。

未来は誰にも分かりません。

だからこそ重要なのは、

「なぜ、その数字になると考えたのか」

を論理的に説明できることです。

数字に根拠があれば、

事業計画書全体の説得力も高まります。

私は今後も、数字そのものではなく、

その数字に至る考え方や論理を大切にしながら、

外国人起業家の挑戦を支援していきたいと考えています。

▶ 次回コラム

「経営管理ビザの確認書は誰に依頼すべきか(仮題)」

制度改正により、中小企業診断士による事業計画書の確認・評価が重要になっています。

次回は、専門家を選ぶ際に確認しておきたいポイントや、私自身が確認業務で大切にしている考え方についてご紹介します。

▶ 関連コラム

・「経営管理ビザはなぜ厳格化されたのか ― 制度の本来目的と『審査の実態』―」

・「経営管理ビザの事業計画書で、なぜ多くの経営者が悩むのか ― 実際の支援現場から見えた課題と対応のポイント ―」

・「経営管理ビザの事業計画書は『通すため』に書いてはいけない ― 事業の実態を正しく伝えることが成功への近道 ―」

・「経営管理ビザで見られる『事業の実態』とは何か ― 書類ではなく、経営そのものが審査される時代へ ―」

筆者プロフィール

鮫島 創(中小企業診断士)

シャーク・コンサルティング代表。

海外PMI(M&A後統合)、海外ガバナンス、医療インバウンド支援を専門分野とする経営コンサルタント。

事業会社では執行役員グローバル事業部長を務め、中国(上海)および香港への駐在経験を有する。

現在は、外国人経営者の経営管理ビザ・高度専門職ビザに関する事業計画書確認・評価業務にも取り組んでいる。

海外事業経験を活かし、外国人経営者とのコミュニケーションにも対応している。