経営管理ビザの事業計画書で、なぜ多くの経営者が悩むのか
― 実際の支援現場から見えた課題と対応のポイント ―
前回のコラムでは、2025年の制度改正により、経営管理ビザおよび高度専門職(経営・管理)の申請において、事業計画書に対する専門家確認が実質的に求められるようになり、審査のハードルが大きく上がったことについて解説しました。
▶ 前回コラム:『経営管理ビザはなぜ厳格化されたのか』
今回は、私が実際に支援している案件をもとに、経営管理ビザの取得・更新を目指す経営者がどのような課題に直面しているのか、また中小企業診断士がどのような観点で事業計画書を確認しているのかについてご紹介したいと思います。
なお、本稿の内容は守秘義務に配慮し、実際の案件を一般化・匿名化したものです。
事業は順調なのに、なぜ不安になるのか
今回ご相談いただいたのは、日本国内で事業を営む外国人経営者の方でした。
事業そのものは既に数年間継続しており、売上も発生しています。従業員も雇用し、金融機関からの融資も受けていました。
一見すると何も問題がないようです。
しかし、経営管理ビザや高度専門職ビザの審査では、
「現在事業を行っていること」
だけでは十分ではありません。
重要なのは、
「今後も継続的かつ安定的に事業を運営できることを合理的に説明できるか」
という点です。
そのため、実際には事業を運営している経営者であっても、事業計画書の作成段階で大きな壁に直面することがあります。
審査官が見ているのは売上だけではない
多くの経営者は、
「売上がある」
「黒字である」
「顧客がいる」
ことを中心に説明しようとします。
もちろん、それらは重要です。
しかし、審査の観点はそれだけではありません。
例えば、
- 事業モデルは合理的か
- 売上予測の根拠は明確か
- 将来の組織体制は現実的か
- 経営者本人が実質的に経営に関与しているか
- 資金計画に無理はないか
といった点も総合的に確認されます。
つまり、
「事業をやっていること」
と
「事業を説明できること」
は別の能力なのです。
事業計画書は『作文』ではない
支援の現場でよく見かけるのが、
「やりたいこと」
は書かれているものの、
「なぜそれが実現できるのか」
の説明が不足しているケースです。
事業計画書は作文ではありません。
審査官や専門家が読み、
「この計画なら実現可能性がある」
と納得できる論理構造が必要です。
私は支援の際、
- 事業モデル
- 顧客構成
- 収益構造
- 将来計画
- 組織体制
などを一つひとつ確認しながら、計画全体の整合性を検証しています。
中小企業診断士は何を確認しているのか
制度改正により、中小企業診断士には単なる書類確認以上の役割が求められるようになりました。
私自身は、確認書を発行する以上、
「この事業は本当に実在し、継続的に運営されているのか」
という点を重視しています。
そのため、今回の支援では、経営者から財務諸表、履歴事項全部証明書、営業許可証、契約書など、事業の実態を確認するための各種資料を開示していただきました。
また、ヒアリングや打合せは、私のポリシーとしてすべて対面で実施しています。
オンライン会議が一般化した現在でも、私は経営者の表情や事業所の雰囲気、従業員の働く様子、設備や施設の状況など、現地でなければ得られない情報を重視しています。
今回の支援でも、初回ヒアリングは対面で約2時間、2回目は実際の事業現場や施設を訪問しながら約6時間、3回目も対面で約2時間にわたり打合せを行いました。
2回目の打合せでは経営者の方と昼食をご一緒し、事業の将来構想や日本で起業した経緯についても詳しくお話を伺いました。
資料だけでは把握できない事業の実態を理解するためです。
私は長年、海外事業や海外PMIに携わる中で、「現場・現物・現実」を確認することの重要性を学んできました。
経営管理ビザの事業計画書確認においても、その姿勢は変わりません。
外国人経営者とのコミュニケーションでは、日本語だけでなく、必要に応じて英語や中国語も交えながら対話を進めました。
事業計画書の評価において重要なのは、数字だけではありません。
経営者がどのような理念や構想を持ち、どのような覚悟で事業に取り組んでいるのかを理解することも大切だと考えています。
私が支援をお引き受けする基準
複数回の対面ヒアリングや現地確認を通じて、私は事業そのものだけでなく、経営者自身についても理解を深めるよう努めています。
経営管理ビザ制度の趣旨は、日本で真剣に事業を営む経営者を支援することにあります。
そのため、私自身は、実態のないペーパーカンパニーや、形式的なビザ取得のみを目的とした案件については支援をお引き受けしていません。
確認書は単なる手続書類ではなく、専門家としての見解を示すものだからです。
一方で、今回の経営者は、実際に事業を運営し、従業員を雇用し、顧客に価値を提供しながら経営に真摯に向き合っていました。
複数回の面談を通じて、その姿勢や事業に対する熱意を感じたこともあり、私自身もぜひ支援したいと考えるようになりました。
制度が厳格化された今だからこそ、形式ではなく実態を重視した支援が求められていると感じています。
制度変更は『締め付け』ではない
制度改正を受け、
「経営管理ビザは厳しくなった」
という声を耳にします。
確かに審査のハードルは上がっています。
しかし、私は必ずしもネガティブな変化だとは考えていません。
本来、経営管理ビザは、日本で真剣に事業を行う経営者を支援するための制度です。
実態の伴わない申請や、形式的な事業計画が排除されることは、制度の信頼性向上にもつながります。
その意味では、しっかりと事業を運営している経営者にとっては、むしろ自身の事業を客観的に見直す良い機会になるのではないでしょうか。
おわりに
経営管理ビザや高度専門職ビザの審査において、事業計画書の重要性は今後ますます高まると考えられます。
事業そのものに問題がなくても、
「どう説明するか」
によって結果が大きく変わることがあります。
もし、
- 事業計画書の作成に不安がある
- 更新や変更申請を控えている
- 専門家の客観的な意見を聞きたい
という方がいらっしゃいましたら、一度立ち止まって計画全体を見直してみることをお勧めします。
事業計画書は、単なる申請書類ではなく、経営そのものを映し出す鏡でもあるのです。
筆者プロフィール
鮫島 創(中小企業診断士)
シャーク・コンサルティング代表。
海外PMI(M&A後統合)、海外ガバナンス、医療インバウンド支援を専門分野とする経営コンサルタント。
事業会社では執行役員グローバル事業部長を務め、中国(上海)および香港への駐在経験を有する。
現在は、外国人経営者の経営管理ビザ・高度専門職ビザに関する事業計画書確認・評価業務にも取り組んでいる。
海外事業経験を活かし、外国人経営者とのコミュニケーションにも対応している。