鮫島コラム

経営管理ビザの事業計画書は「通すため」に書いてはいけない

― 事業の実態を正しく伝えることが成功への近道 ―

▶ 前回コラム:

「経営管理ビザの事業計画書で、なぜ多くの経営者が悩むのか」

前回は、経営管理ビザに関連する事業計画書の作成において、多くの経営者が直面する課題と、その背景について解説しました。

今回は、実際の支援事例をもとに、「通る事業計画書」を目指すのではなく、「事業の実態を正しく伝える事業計画書」を作ることの重要性について考えてみたいと思います。

外国人起業家の事業計画書について助言を行う中で、

「どのような事業計画書を書けばビザが通りますか?」

という質問を受けることがあります。

しかし、私はこの質問に対していつも少し違和感を覚えます。

なぜなら、事業計画書は本来、

「ビザを通すための書類」

ではなく、

「事業の実態と将来性を説明するための書類」

だからです。

実際の支援事例

先日、宿泊事業とIT事業を展開する外国人経営者の事業計画書について助言を行う機会がありました。

その方は、日本語能力試験N1を取得し、IELTS7.5という高い英語力を有する優秀な経営者です。

ご自身で作成された事業計画書も決して悪いものではありませんでした。

実際、私がこれまで拝見した外国人起業家の事業計画書の中でも、かなり高い水準だったと思います。

しかし内容を詳しく確認していくと、

「なぜその事業を行うのか」

「なぜその事業で成功できるのか」

「その数字はどこから導かれたのか」

という部分について、さらに深く掘り下げる余地がありました。

私はその内容をレビューしながら、事業の実態や将来構想がより伝わるよう助言を行いました。

私が助言の中で特に重視したこと

私が助言の中で特に重視したのは、

数字の整合性

です。

売上予測、

客室稼働率、

平均宿泊単価、

顧客構成、

設備投資、

人員計画。

これらが互いに矛盾していないかを徹底的に確認しました。

事業計画書では、

「売上は増加します」

と書くことは簡単です。

しかし、

「なぜ増加するのか」

「その根拠は何か」

を論理的に説明できなければ説得力は生まれません。

私は数字そのものよりも、

数字を支えるロジックを重視しています。

経営者本人の強みをどう事業に結び付けるか

もう一つ重視したのは、

経営者本人の能力と事業との関連性

です。

その経営者は、中国語(母語)、日本語(N1)、英語(IELTS7.5)を自在に操ります。

私は、この語学力を単なる資格としてではなく、多国籍顧客を対象とする宿泊事業における競争優位そのものとして位置付けました。

中国向けSNS運用、

欧米顧客向け情報発信、

外国人宿泊客とのコミュニケーション、

OTA(オンライン旅行代理店)の活用。

ご本人の能力が現在の事業成果にどのように結び付いているのか、さらに将来の事業拡大にどう活かされるのかを、事業計画書の中で整理していきました。

事業計画書は、

会社の説明書であると同時に、

経営者自身の説明書でもあるのです。

「IT事業中心にした方がよい」という助言

実は、この案件では別の専門家から、

「宿泊事業よりもIT事業を中心にした方がよい」

というアドバイスを受けていたそうです。

理由は、

宿泊・民泊事業でビザ取得や更新に苦労するケースが少なくないからでした。

確かに、その考え方にも一理あります。

しかし私は違う考えでした。

宿泊事業とIT事業の両方を展開しているのであれば、その実態を正しく表現することが重要だと思ったのです。

特に、現在の収益の中心が宿泊事業であるなら、その事実から目を背けるべきではありません。

途中でその経営者自身が、

「やはりIT事業を中心にした方がよいのではないか」

と迷われたこともありました。

しかし私は、

事業の実態を正確に表現することが最も重要であるという考えを変えませんでした。

審査する側が見たいのは、

都合よく作られたストーリーではありません。

実際に行われている事業なのです。

結果

助言を重ねながらブラッシュアップされた事業計画書を確認した行政書士の方から、

「見事です。これまで見た中でも最もよくできた事業計画書です」

という評価をいただきました。

もちろん、最終的な判断を行うのは関係当局です。

しかし私は、この言葉を聞いて改めて確信しました。

事業計画書で大切なのは、

「通りそうな事業を書くこと」

ではなく、

「実際の事業を正しく、論理的に説明すること」

なのだと。

おわりに

経営管理ビザに関連する事業計画書では、

制度や書式に目が向きがちです。

しかし、本当に重要なのは、

その事業が実在し、

継続性があり、

経営者が主体的に運営していることを、

第三者に納得してもらえる形で説明することです。

私は今後も、

「通すための資料づくり」

ではなく、

「事業の実態を正しく伝えるための助言」

を通じて、外国人起業家の挑戦を支援していきたいと考えています。

▶ 次回コラム

「経営管理ビザで見られる『事業の実態』とは何か(仮題)」

▶ 関連コラム

「経営管理ビザはなぜ厳格化されたのか ― 制度の本来目的と『審査の実態』―」

「経営管理ビザの事業計画書で、なぜ多くの経営者が悩むのか ― 実際の支援現場から見えた課題と対応のポイント ―」

筆者プロフィール

鮫島 創(中小企業診断士)

シャーク・コンサルティング代表。

海外PMI(M&A後統合)、海外ガバナンス、医療インバウンド支援を専門分野とする経営コンサルタント。

事業会社では執行役員グローバル事業部長を務め、中国(上海)および香港への駐在経験を有する。

現在は、外国人経営者の経営管理ビザ・高度専門職ビザに関する事業計画書確認・評価業務にも取り組んでいる。

海外事業経験を活かし、外国人経営者とのコミュニケーションにも対応している。