鮫島コラム

香港四大トレイル踏破記

香港トレイル②

― 猪と強風、そして「龍の背」へ ―

※前回の「香港トレイル① ― 摩天楼の裏側から始まる50km ―」では、香港島のすぐ背後に本格的な山岳トレイルが広がっていることをご紹介しました。

香港トレイル後半は、前半とはまた違う表情を見せてくれます。

そこにあったのは、

海、
強風、
荒々しい岩場、
そして野生動物の世界でした。

香港トレイル後半へ

私は香港トレイルの後半セクションへ足を踏み入れていました。

この頃には、香港の山歩きにもかなり慣れてきており、休日になると自然とトレイルへ向かう生活になっていました。

この日のハイライトは、何と言ってもこれでした。

野生の猪との遭遇

香港トレイル セクション4の入口付近。

突然、目の前に野生の猪の親子が現れました。

香港は超高層ビルが林立する金融都市として知られています。

しかし、その都市のすぐ裏側には、こうした野生動物が普通に暮らしているのです。

しかも、猪たちは人間に過度に怯える様子もなく、落ち着いて歩いていました。

都市と自然の距離感の近さ。

これは香港という都市の大きな特徴だと思います。

ジャーディンズルックアウトと英国統治の痕跡

途中、ジャーディンズルックアウト周辺では、トレイル整備用の砂袋を運ぶ手伝いもしました。

香港では、ハイカー同士が自然に協力する文化があります。

また、この周辺には英国統治時代の痕跡も色濃く残っています。

「ジャーディンズ」の名は、英国系商社ジャーディン・マセソンに由来しています。かつてこの山頂には、ビクトリア港へ入港する商船を監視するための見張り台(Lookout)が置かれていました。

香港の山を歩いていると、単なる自然だけではなく、

  • 植民地時代
  • 都市開発
  • 軍事
  • インフラ

など、香港の歴史そのものが浮かび上がってくるのです。

岩山を削った射撃訓練場

途中、岩肌を大きく削った射撃訓練場には驚きました。

香港島のイメージとはまったく異なる、荒々しい風景。
ここは、かつて採石場だった跡地を利用した訓練施設でもあります。

私は実際にその施設のすぐ前まで行ってみたことがありますが、都市近郊の山中にこうした施設が存在していること自体、非常に香港らしいと感じました。

さらに尾根道を進むと、山頂付近には古い通信施設も現れます。

都市インフラと山岳地形が複雑に入り混じる。

香港の山には独特の緊張感があります。

想像以上に厳しいアップダウン

この日のコースはかなりハードでした。

香港で歩いたトレイルの中でも、最も急傾斜だった印象があります。

香港の山は標高そのものはそれほど高くありません。

しかし、

  • 急勾配
  • 階段
  • 岩場
  • 湿度
  • 強風

が組み合わさるため、体力をかなり消耗します。

しかも、香港のトレイルは日本の山道とは少し違います。

日本の登山道のように、土や木道が中心ではなく、岩やコンクリートで固められた階段が非常に多いのです。

そのため、下りでは着地衝撃が強く、脚への負担がかなり大きい。

実際、この頃はアキレス腱に違和感を覚えることもありました。

香港のトレイルは、標高以上に「脚に来る山」だと思います。

特にマウントバトラー周辺の上りは厳しく、長い階段が延々と続きました。

後で調べたところ、500段近い階段があるようです。

強風が吹き抜ける尾根道を進みながら、香港島の山の険しさを実感しました。

さらにアップダウンの激しいブレイマーヒルを抜けると、ようやく景色が開けます。

タイタム貯水池の静けさ

そこに現れるのが、美しいタイタム貯水池です。

静かな水面。

周囲を囲む深い緑。

それまでの荒々しい尾根道とは対照的な、穏やかな風景が広がっていました。

ここが世界有数の超高密度都市・香港であることを忘れそうになります。

香港では、山と水資源が都市機能と密接につながっています。

トレイルを歩いていると、香港という都市が、限られた土地と自然環境の中で成立していることを身体で理解できるのです。

最後に待っていた「龍の背」

そして、香港トレイル後半最大のハイライトが「ドラゴンズバック(龍脊)」でした。

人気コースと見えて、バスターミナルには長蛇の列ができていました。

もっと急峻な勾配を想像していましたが、実際に歩いてみると意外なほど歩きやすい。

後で調べたところ、標高は200m台でした。

しかし、龍の背はその名の通り、強風が吹きすさぶ尾根道でした。

むき出しの岩肌。

乾いた海風。

そして、眼下に広がる南シナ海。

香港島南部の海岸線を一望する360度のパノラマは圧巻でした。

金融都市香港のイメージとは、まったく異なる世界がそこにはありました。

歩き終えた頃には、

「次はこのコースを走ってみたい」

と考えていました。

香港トレイル完歩へ

私は自宅からウィルソントレイル経由で香港トレイル セクション5へ入り、そのままセクション7まで歩きました。

既にセクション8のドラゴンズバックは歩いていたため、これで香港トレイル全50km・全8セクションを歩いたことになります。

先週とは打って変わって、抜けるような青空が広がっていました。

爽やかな風の中を歩きながら、香港の冬の心地よさを改めて感じました。

土地灣(To Tei Wan)へ下りたところで、その日のウォーキングを終えました。

振り返れば、香港島の裏側には想像を超える自然が広がっていました。

摩天楼のすぐ背後にある本格的な山岳トレイル。

強風が吹き抜ける尾根。

南シナ海。

英国統治時代の痕跡。

そして、香港市民に根付いたアウトドア文化。

金融都市として知られる香港には、もう一つの顔があったのです。

次回は、香港四大トレイルの中でも最長を誇る「マクリホーストレイル」について書いてみたいと思います。