鮫島コラム

経営管理ビザの確認書は誰に依頼すべきか

―「確認書を書いてくれる人」ではなく、事業を理解してくれる専門家を選ぶ ―

▶ 前回コラム

「経営管理ビザの事業計画書で『数字の根拠』はどう示すべきか」

前回は、経営管理ビザの事業計画書において、売上予測や利益計画などの数字をどのように考え、説明すべきかについてお話ししました。

事業計画書で重要なのは、単に大きな売上や利益を示すことではありません。

「なぜ、その数字になるのか」

を経営者自身が論理的に説明できることが重要です。

では、その事業計画書を確認・評価する専門家には、何が求められるのでしょうか。

今回は、経営管理ビザの事業計画書の確認を依頼する専門家を選ぶ際に、私が重要だと考えていることについてお話しします。

確認書は「最後に判子をもらう書類」なのか

事業計画書の確認というと、

「事業計画書は完成しているので、最後に専門家に確認書を書いてもらえばよい」

と考える方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、私は確認書をそのようには考えていません。

確認書を発行するためには、その前提として、

事業が本当に行われているのか。

事業計画に実現可能性があるのか。

売上や利益の予測に合理的な根拠があるのか。

経営者本人が主体的に事業を運営しているのか。

といった点を確認する必要があります。

つまり、重要なのは確認書という書類そのものではありません。

確認書を発行するまでに、専門家が事業をどこまで理解し、確認・評価しているか

だと私は考えています。

中小企業診断士なら誰に依頼しても同じなのか

中小企業診断士は、経営に関する幅広い知識を持つ国家資格です。

しかし、同じ中小企業診断士でも、それぞれの実務経験や専門分野は異なります。

財務に強い人。

人事・組織に強い人。

製造業に詳しい人。

ITに詳しい人。

創業支援を数多く経験している人。

海外事業の経験を持つ人。

それぞれに異なる強みがあります。

したがって、

「中小企業診断士の資格を持っているか」

だけではなく、

「その専門家が、これまでどのような実務を経験してきたのか」

を見ることも大切だと思います。

私が専門家選びで重要だと考える3つのポイント

では、経営管理ビザの事業計画書の確認を依頼する際、どのような専門家を選べばよいのでしょうか。

私は、少なくとも次の3点を確認することをお勧めします。

1.事業そのものを理解しようとしてくれるか

最も重要なのは、書類の形式だけではなく、事業そのものを理解しようとしてくれるかどうかです。

誰がお客様なのか。

どのような商品やサービスを提供しているのか。

なぜ顧客から選ばれているのか。

どのような仕組みで利益が生まれているのか。

今後どのように事業を成長させようとしているのか。

こうしたことを理解しなければ、事業計画を適切に評価することは難しいと私は考えています。

2.数字の根拠まで確認してくれるか

前回のコラムでもお話ししたように、事業計画書では数字の根拠が重要です。

例えば、

売上高、

利益、

顧客数、

人員計画、

設備投資。

それぞれの数字について、

「なぜ、この数字なのですか」

と確認してくれる専門家であることも重要です。

数字が並んでいるだけでは、事業計画の合理性は判断できません。

数字同士に矛盾がないか。

過去の実績と将来計画がつながっているか。

売上の増加に対して、必要な人員や設備が計画されているか。

こうした点まで確認することで、事業計画書の説得力は高まります。

3.経営者本人と向き合ってくれるか

私は、事業計画書だけでは経営者を理解することはできないと考えています。

なぜ日本で事業を始めたのか。

なぜこの事業を選んだのか。

これまでどのような経験を積んできたのか。

どのような会社にしたいのか。

経営者本人と話をすることで、書類だけでは見えてこなかったことが数多く分かります。

事業計画書は会社の説明書であると同時に、経営者自身の考えを表すものでもあります。

だからこそ、経営者本人と向き合ってくれる専門家を選ぶことが大切だと思います。

私が「現場」を見る理由

私は、経営管理ビザの事業計画書を確認する際、可能な限り実際の事業現場を訪問するようにしています。

これは、私が長年携わってきた海外事業や海外PMIにおいて、

「現場・現物・現実」

を確認することの重要性を学んできたからです。

事業計画書には、

「顧客がいる」

「従業員が働いている」

「設備がある」

「サービスを提供している」

と書くことができます。

しかし、それが実際にどのような状態なのかは、現場を見なければ分からないことがあります。

以前ご紹介した宿泊事業の支援でも、私は実際に複数の施設を訪問し、事業計画書や経営者からの説明と、現場の状況が一致しているかを確認しました。

▶ 関連コラム
「経営管理ビザで見られる『事業の実態』とは何か」

書類と現場の両方を見ることで、初めて理解できることがあると私は考えています。

外国人経営者とのコミュニケーションも重要

経営管理ビザの事業計画書では、外国人経営者とのコミュニケーションも重要です。

日本で事業を行う外国人経営者の中には、日本語を流暢に話す方も数多くいらっしゃいます。

一方で、複雑な経営上の考え方や将来構想を日本語だけで正確に伝えることが難しい場合もあります。

また、日本独特の商習慣や事業計画の考え方について、十分に理解できていないこともあります。

私自身、中国・上海と香港での駐在を含め、長年海外事業に携わってきました。

その経験を活かし、必要に応じて英語や中国語も交えながら外国人経営者とコミュニケーションを取るようにしています。

重要なのは、単に言葉を翻訳することではありません。

経営者が考えていることを正確に理解し、それを日本での事業計画として論理的に整理すること

だと考えています。

「厳しく確認してくれる専門家」の方がよい

専門家から、

「この数字の根拠は何ですか」

「この計画では説明が不足しています」

「この資料も確認させてください」

と言われれば、経営者にとっては少し面倒に感じることもあるかもしれません。

しかし、私は、それこそが専門家に確認を依頼する意味だと考えています。

事業計画の矛盾や説明不足を事前に発見できれば、経営者自身が自分の事業を見直すきっかけにもなります。

場合によっては、

確認書を簡単に出してくれる専門家よりも、簡単には出してくれない専門家の方が、結果として経営者のためになることがあります。

専門家の役割は、経営者が聞きたいことだけを伝えることではありません。

第三者として事業を客観的に見て、必要なことを率直に伝えることも大切な役割だと思います。

私が支援をお引き受けする基準

私はこれまでのコラムでも、実態のないペーパーカンパニーや、形式的なビザ取得のみを目的とした案件については支援をお引き受けしていないとお話ししてきました。

確認書は単なる手続書類ではなく、専門家としての見解を示すものだからです。

一方で、

日本で実際に事業を行い、または真剣に事業を立ち上げようとし、

顧客に価値を提供し、

雇用や投資を通じて、

将来に向けて事業を成長させようとしている経営者については、

できる限り力になりたいと考えています。

そのためにも、経営者と対話し、資料を確認し、数字を検証し、必要に応じて現場を訪れる。

私は、そうしたプロセスを大切にしています。

おわりに

経営管理ビザの事業計画書を確認する専門家を選ぶ際、

「誰が確認書を書いてくれるのか」

だけで判断するのではなく、

「誰が自分の事業を理解しようとしてくれるのか」

という視点を持つことが大切だと思います。

これまで本シリーズでは、

経営管理ビザの厳格化、

事業計画書の役割、

事業の実態、

数字の根拠、

についてお話ししてきました。

これらに共通しているのは、

形式ではなく、実態を見る

という考え方です。

それは、事業計画書を確認する専門家についても同じです。

専門家を選ぶ際には、

「確認書を書いてくれる人」を探すのではなく、

「自分の事業を理解し、必要なことを率直に指摘してくれる人」

を探してほしいと思います。

事業計画書の確認は、単なる申請手続の一工程ではありません。

自分自身の事業を第三者の視点から見直す機会にもなり得るのです。

▶ 次回コラム

「経営管理ビザの取得はゴールではない ― 外国人起業家が日本で事業を成功させるために(仮題)」

経営管理ビザを取得することは、日本で事業を行うためのスタートラインにすぎません。

次回は、経営管理ビザの取得・更新という枠組みから少し視野を広げ、外国人起業家が日本で事業を継続・成長させていくために必要な支援について、実際の支援経験をもとに考えます。

▶ 関連コラム

・「経営管理ビザはなぜ厳格化されたのか ― 制度の本来目的と『審査の実態』―」

・「経営管理ビザの事業計画書で、なぜ多くの経営者が悩むのか ― 実際の支援現場から見えた課題と対応のポイント ―」

・「経営管理ビザの事業計画書は『通すため』に書いてはいけない ― 事業の実態を正しく伝えることが成功への近道 ―」

・「経営管理ビザで見られる『事業の実態』とは何か ― 書類ではなく、経営そのものが審査される時代へ ―」

・「経営管理ビザの事業計画書で『数字の根拠』はどう示すべきか ― 売上予測は希望ではなく、論理で説明する ―」

筆者プロフィール

鮫島 創(中小企業診断士)

シャーク・コンサルティング代表。

海外PMI(M&A後統合)、海外ガバナンス、医療インバウンド支援を専門分野とする経営コンサルタント。

事業会社では執行役員グローバル事業部長を務め、中国(上海)および香港への駐在経験を有する。

現在は、外国人経営者の経営管理ビザ・高度専門職ビザに関する事業計画書確認・評価業務にも取り組んでいる。

海外事業経験を活かし、外国人経営者とのコミュニケーションにも対応している。