独立した専門家は、なぜ「実力」だけでは仕事を獲得できないのか
― セルフプロデュースとセルフプロモーションの実践 ―
実力があれば、仕事は来るのか
独立した専門家が「実力」だけでは仕事を獲得できないのは、その実力が顧客にとってどのような価値を持つのか、必ずしも伝わっていないからです。
どれほど優れた専門知識や実務経験を持っていても、その存在を知られていなければ、仕事を依頼してもらうことはできません。また、存在を知ってもらえたとしても、「この人なら自分の課題を解決してくれそうだ」と思ってもらえなければ、相談や依頼にはつながりません。
そこで重要になるのが、「セルフプロデュース」と「セルフプロモーション」です。
セルフプロデュースとは、自分の経験や能力を、顧客に提供できる価値として再定義すること。セルフプロモーションとは、その価値を必要とする相手に伝え、認知と信頼を獲得することです。
この二つが組み合わさって初めて、専門家としての実力が仕事につながる可能性が高まります。
私は39年間の会社員生活を経て、2024年に中小企業診断士として独立しました。
会社員時代には、営業、人事・労務、情報セキュリティ、海外事業、経営管理など、さまざまな業務に携わってきました。海外では上海と香港に駐在し、グローバル事業の責任者も務めました。
しかし、独立して気づいたことがあります。
会社員時代の経験や実績が、そのまま独立後の仕事につながるわけではないということです。
会社員には、所属企業の信用、役職、組織のネットワークがあります。一方、独立した専門家は、自分自身の名前と提供価値によって、顧客から選ばれなければなりません。
今回は、私自身の独立後の経験も交えながら、専門家が仕事を獲得するために必要なセルフプロデュースとセルフプロモーションについて考えてみたいと思います。
なぜ「実力」だけでは仕事につながらないのか
独立した専門家にとって、専門知識や実務経験は欠かせません。
しかし、それらは仕事を獲得するための必要条件であって、十分条件ではありません。
例えば、ある経営コンサルタントが「私は海外事業に30年以上携わってきました」と自己紹介したとします。
その経験は貴重なものですが、顧客にとって重要なのは経験年数そのものではありません。
「海外進出を検討しているが、現地の人材をどう採用すればよいのか」
「海外子会社の業績が伸び悩んでいるが、何が問題なのか」
「現地経営者と日本本社の間で意思疎通がうまくいかない」
こうした課題に対して、どのような支援ができるのか。顧客が知りたいのは、そこなのです。
つまり、専門家が持っている「能力」と、顧客が認識する「価値」は、必ずしも一致しません。
いくら優れた能力を持っていても、それが顧客の課題と結びついていなければ、選ばれる理由にはならないのです。
私は、独立した専門家が仕事を獲得するためには、少なくとも次の三つが必要だと考えています。
- 顧客の課題を解決できる専門能力があること
- その能力が、顧客にとってどのような価値を持つのか明確になっていること
- その価値が、必要とする顧客に伝わっていること
一つ目が専門家としての実力だとすれば、二つ目がセルフプロデュース、三つ目がセルフプロモーションに相当します。
セルフプロデュースとは、自分の価値を設計すること
セルフプロデュースという言葉から、自分を魅力的に見せることや、他人との差別化を図ることを連想する方も多いでしょう。
もちろん、それらも一つの側面です。
しかし、私が考えるセルフプロデュースの本質は、自分の経験や能力を、顧客に提供できる価値として再定義することにあります。
そのためには、まず自分自身の棚卸しが必要です。
これまでどのような仕事に取り組み、どのような問題を解決してきたのか。何を得意とし、どのような場面で力を発揮できるのか。
ただし、職務経歴を時系列で整理するだけでは十分ではありません。
重要なのは、それらの経験が、今の顧客にとってどのような意味を持つのかを考えることです。
例えば、私は会社員時代に情報セキュリティ部門の責任者を務めた経験があります。
しかし、その経歴を紹介するだけでは、顧客にとっての価値は明確になりません。
中小企業の経営者に対して、情報セキュリティを経営リスクの観点から説明し、経営資源に応じた対策を助言できるとすれば、初めて具体的な提供価値になります。
また、異なる分野の経験を組み合わせることで、新たな専門性が生まれることもあります。
海外事業と人事・労務の経験を組み合わせれば、海外拠点の人材マネジメント支援につながります。経営戦略とWebマーケティングの知識を組み合わせれば、単なる集客施策ではなく、事業戦略に基づいたマーケティング支援が可能になります。
自分が何を経験してきたかだけではなく、その経験を使って、誰のどのような問題を解決できるのか。
この問いに向き合うことが、セルフプロデュースの出発点だと考えています。
セルフプロモーションとは、価値を必要とする人に伝えること
自分の提供価値を明確にしたとしても、それだけで仕事が生まれるわけではありません。
その価値を必要とする人に知ってもらい、理解してもらい、信頼してもらう必要があります。
これがセルフプロモーションの役割です。
セルフプロモーションというと、積極的な売り込みや自己宣伝を思い浮かべる方もいるかもしれません。
しかし、私は必ずしもそうではないと考えています。
むしろ重要なのは、自分の専門性を継続的に発信し、相手が必要としたときに思い出してもらえる存在になることです。
例えば、Webサイトに専門分野のコラムを掲載すること。LinkedInなどのSNSで知見を発信すること。セミナーや勉強会で講師を務めること。人的ネットワークを通じて、自分の専門性を知ってもらうこと。
これらはいずれもセルフプロモーションの手段です。
ただし、発信すること自体が目的になってはいけません。
大切なのは、誰に向けて、何を伝えるのかということです。
専門用語を並べて知識の豊富さを示すよりも、顧客が抱える問題をわかりやすく説明し、その解決に役立つ情報を提供する方が、信頼につながることもあります。
また、一度の発信ですぐに仕事につながるとは限りません。
専門家としての認知や信頼は、継続的な情報発信や人との関わりを通じて、少しずつ蓄積されていくものだと思います。
私自身のセルフプロデュースとセルフプロモーション
私自身、独立してから試行錯誤を続けています。
独立当初は、会社員時代の幅広い経験をどのように専門家としての強みに転換するかが課題でした。
営業、人事、情報セキュリティ、海外事業、Webマーケティングなど、経験した分野は多岐にわたります。
しかし、何でもできると伝えることは、必ずしも強みにはなりません。かえって、何を専門とする人なのかがわかりにくくなることもあります。
そこで私は、自分の経験を顧客の課題と結びつけながら、外国人起業家支援、海外事業支援、Webマーケティング、医療インバウンドなどの領域で専門性を具体化してきました。
もちろん、これらすべてが最初から明確に定まっていたわけではありません。
実際の相談や仕事を通じて、自分の経験がどのような場面で役立つのかを確かめながら、少しずつ方向性を見直してきました。
一方、セルフプロモーションについては、自社Webサイトでの専門コラムの継続的な発信に取り組んでいます。
経営管理ビザ、海外ビジネス、Webマーケティング、生成AIなど、自分が実務で関わっている分野を中心に、読者の疑問や課題に答えることを意識してきました。
その結果、いくつかのコラムがGoogle検索で上位に表示され、AI Overviewにも引用されるようになりました。
もちろん、検索順位が高いことと、仕事を獲得できることは同じではありません。
しかし、自分の専門性を、これまで接点のなかった人にも知ってもらう機会が広がっていると感じています。
また、LinkedInでは英語による情報発信にも取り組んでいます。
インプレッション数は決して多くありませんが、海外の専門家との新たな接点が生まれ、意見交換につながることもあります。
さらに、中小企業診断士向けの講演活動も、自分の経験を整理し、専門性を伝える機会になっています。
こうした取り組みを通じて感じるのは、セルフプロデュースとセルフプロモーションは、一度設計すれば終わりというものではないということです。
自分の提供価値を考え、発信し、相手の反応を確かめる。そして、必要に応じて見直す。
この繰り返しによって、自分自身の専門性も少しずつ磨かれていくのだと思います。
自分の価値は、自分で設計し、伝える
独立した専門家にとって、実力を磨き続けることは欠かせません。
しかし、実力を磨くだけでは、その価値が必要とする人に届くとは限りません。
自分は誰の、どのような課題を解決できるのか。
その価値を、どのように伝えれば理解してもらえるのか。
この二つの問いに向き合うことが、セルフプロデュースとセルフプロモーションの本質ではないでしょうか。
そして、これは独立した専門家だけの問題ではありません。
会社員として次のキャリアを考えている方、定年後に新しい仕事を始めようとしている方にとっても、自分の経験や能力を見つめ直し、その価値を社会に伝えていくことは重要だと思います。
自分という商品を磨くこと。そして、その価値を必要とする人に届けること。
どちらか一方ではなく、両方に取り組むことが、専門家としての新たな可能性を開くのだと私は考えています。
シリーズ次回予告
▶ セルフプロデュース/セルフプロモーション② ― 自分の価値を仕事につなげる実践法 ―(仮)
今回は、独立した専門家にとって、なぜセルフプロデュースとセルフプロモーションが重要なのかを考えました。
次回は、自分の強みの棚卸し、顧客に提供する価値の明確化、WebサイトやSNSを活用した情報発信など、具体的な実践方法を掘り下げます。
自分という商品を、どのように磨き、必要とする人に届けていくのか。私自身の試行錯誤も交えながら考えてみたいと思います。