香港四大トレイル踏破記 – マクリホーストレイル⑥
― 100km踏破、マクリホーストレイル完結 ―
はじめに
マクリホーストレイルも、いよいよ最終回です。
前回は針山、草山を越え、香港最高峰の大帽山まで歩きました。
今回歩くのは、最後のセクション9と10。大帽山周辺から西へ進み、屯門(Tuen Mun)にあるマクリホーストレイルの終点を目指します。
この日は約23.2km。私がマクリホーストレイルを歩いた中でも、一日の歩行距離としては最長でした。
ただ、正直に言えば、セクション9・10は、それまでのマクリホーストレイルと比べると、少し単調でした。
起伏は比較的少なく、舗装路も多い。しかもこの日は曇り空で、ときどき霧雨が降り、山の上では深い霧に包まれました。せっかくの景色もほとんど見えません。
しかし、それでも歩き続けました。
なぜなら、この日のゴールには、100kmを歩いてきた人だけが見ることのできる「M200」の距離標が待っているからです。
前回コラム
▶ マクリホーストレイル⑤ ― 針山・草山から香港最高峰・大帽山へ
霧の中、最後の23kmへ

霧に包まれた大欖郊野公園。マクリホーストレイル最後の長い一日が始まります。
セクション9から10にかけては、大欖郊野公園(Tai Lam Country Park)の中を西へ進んでいきます。
この日の天気は曇り。ときどき霧雨が降り、標高の高いところでは辺り一面が霧に覆われました。
前回の針山や草山のような急登はありません。むしろ、歩きやすい道が長く続きます。
23kmという距離を考えれば、暑くなかったのは助かりました。

山道は深い霧の中へ。この日は遠くの景色がほとんど見えず、霧の中を黙々と歩き続けました。
香港のトレイルといえば、山の上から高層ビル群や海を眺めるダイナミックな景色を思い浮かべます。
ところが、この日は何も見えません。
これもまた、山歩きです。
延々と続く道を歩く

霧の中へ延びる舗装路。セクション9・10には、このような歩きやすい道も多くあります。
今回のルートで印象に残っているのは、「歩き続ける」という感覚です。
針山のような息を切らす急登もなければ、天空回廊のように思わず立ち止まる大パノラマもありません。
ただ、道が続いている。
だから歩く。
しかし、そんな単調な道の途中で、思わず目を奪われた光景がありました。

3月7日とは思えないほど鮮やかな新緑。亜熱帯の香港ならではの季節の早さを感じました。
道の両側を覆っていたのは、鮮やかな新緑でした。
この日は3月7日です。
日本であれば、まだ冬の名残が色濃く残る時期でしょう。しかし香港では、すでに木々が瑞々しい若葉を広げていました。
香港は亜熱帯に位置します。実際に暮らしていると気温や湿度の違いは日々感じますが、こうして山を歩いていると、季節の進み方そのものが日本とは違うことを実感します。
霧に包まれた少し肌寒い一日でしたが、木々はすでに春から次の季節へ向かっていました。
実際、当時の記録にも、
「今日は距離こそ長かったものの、上りがほとんどなかったので脚への負担は軽く、先週と比べるとダメージははるかに軽かった」
と書いていました。
同じ23kmでも、獲得標高によって身体への負担はまったく違います。
この日の記録は約23.2km、移動時間約4時間半、獲得標高466mでした。

約23.2kmを4時間半あまりで歩きました。私のStrava上でも当時の最長ウォーキングでした。
霧の向こうに現れる香港の自然

霧に濡れた山の中で、鮮やかな赤い花が目を引きました。
景色の変化が少ないからこそ、途中で出会う小さなものに目が向きます。
霧の中で咲いていた鮮やかな花。
山中にひっそりと建つ小さな祠。

山中で出会った小さな祠。香港のトレイルでは、こうした信仰の風景に出会うことがあります。
香港の山を歩いていると、自然の中に人々の暮らしや信仰が突然現れます。
高層ビルだけを見ていては分からない香港です。
貯水池を見下ろす

山あいに広がる貯水池。霧の中にも香港の豊かな緑が続きます。
やがて眼下に貯水池が見えてきました。
マクリホーストレイル①では、巨大な万宜水庫(High Island Reservoir)から100kmの旅を始めました。
最終盤でも再び貯水池の風景に出会います。
香港のトレイルを歩いていると、山と貯水池が非常に近いことに気づきます。
人口700万人を超える大都市でありながら、そのすぐ隣には広大な山林と水源が残されています。
今度は黒山羊の親子

山中で出会った黒山羊の親子。香港の山では、思いがけない動物との出会いがあります。
そして、道端で黒山羊の親子に出会いました。
こちらを警戒する様子はありますが、山の中を自由に歩いています。
このシリーズでは、牛や猪など、さまざまな動物をご紹介してきました。
今度は黒山羊です。
香港というと、どうしても超高層ビルが密集する大都会というイメージが先行します。
しかし、少し山へ入れば動物たちが元気いっぱいに暮らしている。
これも私が香港のトレイルを好きになった理由の一つです。
少しずつ都市へ戻っていく

長かった山道も終盤へ。少しずつ屯門の市街地へ近づいていきます。
長い山道を歩き続けると、やがて周囲の景色が変わってきます。

眼下に広がる屯門の市街地。その背後には青山(Castle Peak)がそびえます。
山の向こうに、再び高層住宅群が現れました。
自然の中から突然、巨大な都市が姿を現す。
これまで何度も書いてきましたが、この劇的な距離の近さこそ、香港の大きな魅力です。
100kmの旅も、いよいよ終わりに近づきました。
M200――100kmを歩いた証

M200の距離標。500mごとに設置された標柱の200番目――100kmを歩いてきたことを示します。
ついに「M200」が現れました。
マクリホーストレイルには、おおむね500mごとに距離標が設置されています。
M001から始まり、ここがM200。
500m × 200。
100kmです。
この数字を見た瞬間は、やはり特別でした。
マクリホーストレイル100km、踏破

マクリホーストレイル終点。セクション1から10まで、全長100kmを歩き切りました。
これで、全10セクション、約100kmのマクリホーストレイルを踏破しました。
Section 9・10だけを振り返れば、これまでの区間ほど劇的な景色が続くコースではありません。しかし、最後の23.19kmを歩き終えたときに感じたのは、この日の景色よりも、ここまで歩いてきた100km全体の記憶でした。
100kmを歩いて見えた「もう一つの香港」
マクリホーストレイルの100kmでは、本当にさまざまな香港を見ました。
巨大な万宜水庫から始まり、エメラルドグリーンの海、誰もいなくなった村、険しい山道、天空回廊、針山の急登、草山、香港最高峰の大帽山。
そして牛、猪、山羊などの動物たち。
香港に赴任する前、私にとって香港は「高層ビルが立ち並ぶアジアの国際金融都市」でした。
もちろん、それも香港です。
しかし100kmを自分の脚で歩いてみると、そのイメージだけでは香港という場所を理解できないことが分かります。
山があり、海があり、貯水池があり、村があり、動物がいる。
そして山を越えれば、また巨大な都市が現れる。
世界有数の大都市と、驚くほど豊かな自然が隣り合って存在している。
それが、私が100kmを歩いて知った香港でした。
屯門駅から、いつもの香港へ

屯門駅から帰宅の途へ。100kmを歩き終えても、香港の日常はいつも通り続いています。
終点から市街地へ下り、屯門駅へ。
MTRに乗れば、そこにはいつもの香港の日常があります。
山を23km歩いてきた人も、買い物帰りの人も、仕事へ向かう人も、同じ電車に乗る。
この「山と日常の近さ」も香港ならではです。
こうして、私のマクリホーストレイル100kmは終わりました。
しかし、香港四大トレイルへの挑戦は、まだ終わりません。
次回予告
▶ 香港トレイル踏破記 – ウィルソントレイル①
マクリホーストレイル100kmを踏破し、次に挑むのは全長約78kmのウィルソントレイル(Wilson Trail)。
香港島南部から新界北東部へ。
マクリホーストレイルとはまた違う香港を、自分の脚で歩いていきます。
シリーズを最初から読む
▶ マクリホーストレイル① ― 香港最大の水がめ・万宜水庫と西貢半島
▶ マクリホーストレイル② ― エメラルドグリーンの海と秘境の村を歩く